リゾートワークといえば軽井沢vol.03
ワークスタイルの変化が広がり始めていた近年。
新型コロナウイルスの感染拡大は、その動きを加速するきっかけとなりました。
オンライン化が急速に進み、場所を選ばず、仕事や教育を受けられる環境が整ったいま、これを機に自然環境豊かな場所へ移住を決める人たちも増えてきています。
そんな中、これまで人気のリゾート地として知られていた軽井沢が、都心からのアクセスの良さも魅力と大変注目を集めています。
実際に軽井沢でリゾートワークされている方々を取材しました。
坂口惣一さん
軽井沢と六本木を往復する二拠点編集者。書籍の編集に携わる。3歳の娘と妻の3人で東京都世田谷区から2020年4月に軽井沢へ子育て移住。平日は新幹線通勤でオフィスに通う。現在、家庭菜園が高じて自然栽培に挑戦すべく畑を探し中。1979年茨城県生まれ。
interviewer ロイヤルハウジンググループ 上席執行役員
谷本有香
証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めたあと、米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。Forbes JAPAN Web編集長。
自然豊かな環境は、仕事のみならず、教育においてもメリットが多いため、テレワークの実現や軽井沢に新しい学校が設立したことを機に移住を決意した人も増えているのだそう。軽井沢移住によってQOL(生活の質)が上がったという、SBクリエイティブの坂口惣一さんに、軽井沢での仕事と子育てについて聞きました。
移住の決め手は自然豊かな教育環境
谷本 坂口さんは、2020年の3月末に軽井沢に移住されましたよね。いつ頃から移住を考え始めたのでしょうか。
坂口惣一さん(以下敬称略) 4年前に第一子が生まれてから、少しずつ東京での生活に疑問を感じるようになりました。というのも、私も妻も出版社で働いていたので、業界柄、昼夜問わず働くのが当たり前になっていたんですね。子供が生まれてからも、妻は子供を寝かしつけた後、夜中の2〜3時まで仕事をすることもあって、職場復帰して1年くらいが経ったときに体調を崩してしまったんです。そのときに「この生活はサスティナブルではないな」と痛感しました。東京は子供が自由に遊ぶスペースも限られていますし、限界があります。家族の将来を思うと、心身ともに健康でいられる場所へ引っ越したほうがよさそうだと考えるようになりました。
谷本 移住先に軽井沢を選んだ理由は?
坂口 1番の決め手は、今年開校した風越学園への入園です。移住前には鎌倉や逗子など、いくつかのエリアに実際に足を運びました。そんななか軽井沢は、毎年家族で訪れるくらい気に入っていた街なので候補地のひとつではあったのですが、さすがに東京までの通勤を考えると、現実的に難しい気がしていた。そんな時、風越学園という3歳から15歳までの一貫校ができると聞き、学校説明会に参加したんです。
説明会では「子どもが15歳になったとき、どういう子になっていてほしいか」をワークショップ形式で話し合いました。そこで、私たちは改めて、子どもへの願いを言葉にする機会がもてたのです。夫婦で一致した願いは、「好きなことを自分で見つけられる子に育ってほしい」ということでした。受験や学力も大切かもしれませんが、プレッシャーのなかでまなぶよりも、もっと自分の「これが好き!」「やりたい!」のきもちを大切に、自由奔放に生きてほしい。この気づきをきっかけに、学校や地域への願いも明確になっていきました。「軽井沢は自然豊かで、理想とする教育環境がある。だったら思い切って移住しようよ」そんな話し合いを経て、移住することを決めました。
子どもの成長と仕事に対する変化
谷本 お父様の目から見て、お子さんの変化を感じる部分はありますか。
坂口 自然でめいっぱいあそんでいる影響からか、どんどん野生児化していますね(笑)。でも実は、子どもよりも、親の変化のほうが大きいと感じているんです。というのも、東京での子育ては、管理がいきすぎていたと感じることがあります。軽井沢にいると、親もゆったりとしたきもちで見守ることができます。私たち保護者だけでなく、学校スタッフや、地域のコミュニティの方々が、子どもに対しておおらかなまなざしをもっているからかもしれません。移住初日、すれ違う近所の方みんなが挨拶の声をかけてくれたように、安心が醸成されている。それも、軽井沢の魅力の一つだと感じます。
谷本 そこから得られる、数字では表せない教育は大きいですよね。
坂口 そう思います。まだ3歳ですが、少しずつ変化も現れてきました。これまで夜はオムツをつけて寝ていたのですが、ある日、突然「夜はオムツしない」と宣言しました。周りからの強制ではなく、自分から行動習慣を変えようと決めたのには、驚きました。小さいことですが大きな変化だと感じます。幼稚園から小学生までがまざってまなぶ異年齢クラスなので、お姉ちゃんの姿をみて、刺激を受けるところがあるのかもしれません。
谷本 坂口さんご自身の変化はいかがでしょうか。軽井沢移住で実際に通勤されてみて、いかがですか。
坂口 5月末までは完全リモートワークでしたが、非常事態宣言の解除で6月から東京へ通勤する生活に戻りました。「新幹線通勤をしている」というと「たいへんだね」といわれることも多いのですが、実際やってみると、意外とメリットもあります。新幹線での70分は、誰にも邪魔されない自分ひとりの時間です。パソコンも広げられるので、密室にこもった感覚で仕事をしたり、日々の気づきをブログに書いたりもできます。満員電車と違って、体力を消耗することもありません。7〜8月がハイシーズンですが、乗客数が多い東京発の便でも1本見送れば座れます。標高差による気圧の変化など身体への負担があるのは事実ですが、通勤時間を活用できる効果は大きいです。
谷本 奥様の仕事にも変化はありましたか。
坂口 妻は軽井沢に来たことで、自分の気持ちに正直に仕事をやっていきたいという想いが強くなったようです。東京で働いていたときは、どうしてもノルマという考えに支配され、目標数字を達成することがプライオリティの上位にありました。それももちろん大切なことなのですが、今はより大きな視点で仕事をとらえ、暮らしのなかに位置付けることができているようです。
生活の質の向上で新たに芽生えた目標
谷本 仕事、教育、生活、すべての面で魅力のある軽井沢ですが、もし課題感や期待感を感じる部分があれば教えてください。
坂口 一つ挙げるとすると、「軽井沢の魅力」をほかの地域の人にも知ってもらえるよう、違った視点での情報発信ができたらと感じています。「軽井沢ブランド」はもちろん知らない人はいませんが、メディアを通して伝えられるイメージはすこし排他的で、土地の魅力が充分に伝わっていないのではないでしょうか。実際に住んでみると、こんなにも人と自然が共生している環境はほかにはなかなかないですし、多層的で懐の深い場所だと気がつきました。私が感じる一番の魅力は、みんなが周りの目を気にすることなく、「自分の好き」を形にしていることです。それが、良質な暮らしやコミュニティの豊かさに繋がっている。ですので、住む人からみた魅力をそのまま発信できたら、新しいなにかがうまれるのでは?と感じています。
実は私自身もやりたいことがあります。軽井沢を「本の街」にしたいんです。移住してまだ間もないですが、少しずつ地域に根ざした活動がしたいという想いが芽生えてきました。文豪が愛した軽井沢の地で、ゆくゆくは書店か出版社をハブに、人同士の出合いが生まれる交流の場をつくれたらいいなと妄想します。木を植えるように本を1冊ずつ届けることで、本がそばにある日常を少しでも増やしていきたいです。
谷本 地域に根差した活動がしたいという想いが芽生えたきっかけは何ですか。
坂口 軽井沢で暮らし始めて、家族みんなのQOLが上がりました。その恩恵を受けられているのも、脈々と受け継がれてきた文化があるからこそです。
コロナ禍で移住を検討する人が増えていると聞きました。そういった方達にお伝えしたいのは、外から情報を集めるだけでは、リアルな情報は十分に得られないということです。軽井沢に住むメリットは、言葉にすると「自然が豊か」や「QOLが上がる」という月並みのものになってしまいます。でも実際に体感した変化はもっと大きいものでした。内から湧き上がってくる感覚、それが大切だと思います。ぜひ実際に足を運んで、軽井沢の魅力を感じてみてください。